2018年秋季低温工学・超電導学会 セッション報告

11月19日(月)
A会場

超電導接続(1) 1A-p01-06 座長 永石 竜起

1A-p01:高島(産総研)らは、REBCO線材を超電導特性を劣化させないよう常温で異種超電導材料(NbTi)を用いて接続する検討を
進めている。まずはNbTiの室温成膜を試み、その配向成長とNbTi同士の接続で8.1 KのTcが得られることを確認した。接続の界面での
変質層を断面TEMで観察したところ、過剰酸素とNbTiでの欠陥が観察された。
1A-p02:熊倉(NIMS)らは、PIT法で作製された2本のMgB2線材の端部をテーパー状に削り、テーパー部分を合わせて圧力を掛けて熱処理
することで超電導接続が形成できることを示した。
1A-p03:高野(NIMS)らは、Bi2223/NbTi超電導接続において、Ic-B特性を向上させるために接続部の超伝導ハンダにBiを加える検討
を行い、Tcの向上と4.2 K、自己磁場中でIc=200 A、5 kOeで50 Aの高Icを得た。また、補強材付きBi2223線材であるtype HT-NXを使用
することで根本腐食の問題を解決した。
1A-p04:武田(東大)らは、Bi2223線材同士の超電導接続において接続のフィラメント数を倍増して接続面積を倍増させることにより、
4.2 Kにおいて400 A以上の超電導接合Icを得た。また、拝み合わせタイプの作製も検討し、4.2 Kで40 Aを得た。
1A-p05:金(室蘭工大)らは、Bi2223の部分溶解を利用した超電導接続(JIM法)を検討しているが、接続Icを高くするためにマルチ
ジャンクションを形成。従来の接合長10 mmに対し、3個所(8 mm、4 mm×2)とすることで、Icは8.6 Aから16.3 Aに改善した。
1A-p06:伊藤(東北大)らは、Bi2223線材のインジウム低温熱処理機械的接合を検討した。Bi線材は線材自体に圧力をかけると100 MPa
程度でIcが低下したため、それ以下の圧力でインジウムを挟んだ機械接合を行った。線材のIcである180 A付近で屈曲点を有するI-V特性が
得られた。接合界面を観察するとInとAgの合金層が形成されており、形成時の温度を高くする(100℃)と隙間が多くなることが示された。


超電導接続(2) 1A-p07-11 座長 西島 元

(1A-p07) 金(室蘭工大)は、CJMB法と名付けたREBCO線材接続方法の研究開発を行なっている。この方法では、例えばGdBCO線材
の場合は融点の低いYbBCOを中間媒体として接続するが、この接続部分のIc劣化を拡散の観点から議論した。
(1A-p08) 寺西(九大)らのREBCO線材接続では、REBCO薄膜上に追加堆積膜を作成して対向させ、機械的圧力を印加して結晶化
熱処理を行なっている。この機械的圧力と実際に接合している面積の関係を調査し、接続部の組織観察も行ない、良好な接続の
ためには適切な圧力範囲が存在すると述べた。
(1A-p09), (1A-p10) 内田(NIMS)と小林(NIMS)は、NIMSが開発を進めている超伝導線材接続抵抗評価装置の設計、冷却試験、
抵抗測定結果について報告した。装置は試料側とマグネットの2真空容器で構成されるが、マグネットは現在製作中である。試料の
超伝導ループは冷凍機で冷却され、温度可変である。REBCO線材を半田接続した試料の接続抵抗測定結果が示されると同時に、
「超伝導」接続試料の測定依頼に対応可能と述べた。
(1A-p11) 柳澤(理研)は、約40 mのREBCO線材を用いて2箇所の超伝導接続部を含む4層レイヤー巻きコイルをLTS外層コイルと組み
合わせて9.39 T (400 MHz) 永久電流運転に成功し、NMR信号取得に成功したと報告した。得られたスペクトルは市販400 MHz NMRと
比較して遜色ない。マグネットシステムとしてはPCSの抵抗やヒータ等に課題が残ると述べた。


11月19日(月)
B会場

バルク着磁・応用 1B-a01-06 座長 紀井 俊輝

バルク着磁・応用セッションでは、5件のバルク材料の着磁特性に関する口頭発表と、1件のバルクのNMR応用に関する口頭発表
が行われた。
1B-a01 下屋敷(岩手大)らは、バルク材料のパルス着磁過程における応力解析を数値シミュレーションにより行い、着磁過程で圧縮
応力から引張応力へと変化していく様子を詳細に示した。
1B-a02 難波(岩手大)らは、バルク材料の磁場中冷却時における周方向と径方向のひずみを同時に計測し、またその結果が応力解析
結果とよく一致していることを示した。
1B-a03 森田(新日鐵住金)らは、新しい補強方法を適用したリング状積層バルクによる15 T級の着磁について報告を行った。磁場
変化速度を制御することでクエンチを抑制し強磁場空間をリング内に生成できることを示した。
1B-a04 平野(岩手大)らは、温度を変えた2段階パルス着磁をスプリットコイル法に適用した場合の捕捉磁場特性について報告を行った。
磁束運動、温度上昇について電磁界・熱伝導シミュレーションによる評価で1段階目の着磁の影響が表れていることを指摘した。
1B-a05 横山(足利大)らは、バルク試料サイズに合わせた大型ヨークを用いたパルス着磁装置を用いて着磁試験を行い、ピーク磁場
強度、総磁束ともに向上したことを報告した。
1B-a06仲村(理研)らは、バルク超電導磁石を用いたNMR装置での軸方向静磁場分布の非対称性の低減のために円筒を6分割した角型
コイル3段からなるマルチシムコイルを実装し、高次の磁場補正効果について評価を行った。シムコイル実装手法の高度化に伴いNMR微細
構造の観測が可能になりつつあることを報告した。


Y系、MgB2、鉄系バルク 1B-p01-06 座長 岡 徹雄

本セッションでは3種類のバルク材料の合成に関する6つの口頭発表が実施された。
1B-p01の澤田(岩手大)らは、鉄系超伝導体FeSeを合成してその構造をXRDによって調査した。超伝導性のβ-FeSe相に不純物として
Fe2Se7が析出することを示し、これにポストアニールを施した試料は臨界温度6.1 Kで超伝導遷移を示したと報告した。
1B-p02の高橋(岩手大)らは、MgB2結晶の粒径の微細化とその捕捉磁場性能との関連を調べるた。ボールミルによる粉砕時の条件を
変えて準備したB粉末を用い、浸透法による合成実験を行って様々なB粒度における捕捉磁場とTcの変化を明らかにした。
1B-p03の佐野川(東京農工大)らは、高密度なMgB2の合成をねらって気相輸送法(MVT法)による合成を試行した。合成時の体積変化
に起因する亀裂の生成を観察する一方、Premixを施しながらMVT法によって合成した試料の組織の均一性とその改良について言及した。
1B-p04の松丸(青学大)らは、Gd123系超伝導バルク体に対し、そのピン止め性能の向上に向けた研究を行い、BaZrO3とBaSnO3を添加
した試料において粗大結晶の成長が起こることを報告し、その際の均一なピン止め性能について言及した。
1B-p05の箭内(青学大)らは、Y123系の大型バルク超伝導体の合成をねらい、Y系より融点の高いGd123系の大型溶融バルクを種結晶に
用いて、任意方位の粗大結晶が成長することを示した。XRDによる構造同定と、成長した結晶方位の違いによるJcの磁場依存性を実験的
に評価した。
1B-p06で下山(青学大)らは、溶媒を使って液相中で結晶配向させる新たな方法でバルク試料を作製しその構造を調査した。希土類123系
において磁場下で配向させた焼結試料に明らかな結晶配向が確認されたことが報告された。


Bi系線材・鉄系線材 1B-p07-13 座長 松本 明善

Bi系線材のセッションでは6件の発表があった。
「1B-p07:岡田(住友電工)」からは高強度DI-BSCCO線材の開発状況について報告があった。高磁場用線材のために高強度線材の可能性に
ついて報告があった。今年度はステンレス鋼をラミネート材に使用した線材において厚みを厚くすることによって400 MPaまで到達した
ことを示し、今後ニッケル合金の厚みを変えたNX線材の開発を行い、500 MPaを目指すという報告を行った。
「1B-p08:酒井(東北大)」からはDI-BSCCO線材の歪効果についての報告があった。66 K、77 KにおけるType-NX線材の許容引張歪はともに
0.45%、引っ張り応力は470 MPaであることを示し、今後、さらなる低温での評価を行っていく予定であることを示した。
「1B-p09:大田(富山大)」からはDI-BSCCO線材の引張時損傷過程の観察に関して報告を行った。線材を長手方向に研磨し、引張試験をしながら、
その組織観察を行い、その損傷過程の観察を行った。Ic95%では異相界面等の剥落が起こると同時に直接観察では見られない、マイクロクラック
が入っていると想定され、Ic90%でフィラメント内のクラックが形成されていることを観察した。
「1B-p10:小池(青学大)」からはDI-BSCCO線材の焼成過程について検討を行っており、1次焼成のみで高い特性が得られるかについて研究を
行っている。低温焼成においては不純物が多く生成しやすく、高温ではPb置換量が減少することを報告した。
「1B-p11:田中(青学大)」高濃度Pb厚膜の合成についての報告を行った。数十ミクロン以上の厚膜作製において配向させるためにエタノール
に入れたスラリーを永久磁石の上で滴下する手法を開発し、Bi2223層の焼成を行った。この厚膜作製は非常に簡単な手法にもかかわらず、
緻密な結晶が配向していることを示した。この手法によりc軸配向度の制御が可能で有り、かつPb置換量の増大も期待されるとした。
「1B-p12:植村(農工大)」からはBa122相の合成を拡散法によって作製し、相生成機構について検討を行った結果の報告があった。BaやAs
蒸気圧の中に鉄板を置き、熱処理を行う方式により、鉄板表面にBa122相の生成に成功した。FeからBa122へはまずFeからFe2Asへ相変態し、
その後、Fe2AsからBa122へ相変化を起こすことを示した。
「1B-p13:呉(九州大)」からは中国電工研で作製されたBa122線材の磁気顕微鏡による局所Jc分布の評価を行った。前回から詳細な検討を行った
結果、圧延方向に対して、ルーフトップの角度が45゜からずれており、圧延方向と横方向で異なる特性を示す可能性も有り、今後詳細な組織
観察と合わせることが重要であるとした。一方で、この線材においては4 Tで高いn値が得られており、大変興味深いところであった。


11月19日(月)
C会場

A15線材 1C-a01-06 座長 坂本 久樹

1C-a01:菊地(NIMS)は、Nb3AlはBc2が高く、耐歪特性も良く、またSnによる安定化銅の汚染の心配もないので、Nb3Snよりも優れているが、
コスト、特性が課題であるとし、低コスト化に対して、大気中急冷急熱処理での特性について報告した。
1C-a02:小黒(東海大)は、Sn濃度が17.5wt%と18.5wt%の超高Sn濃度ブロンズ法Nb3Sn線材の機械特性について報告した。残存Sn量を多くする
ことによって、残留歪みを大きくし、大歪みでも利用可能な線材を設計できる可能性があるとした。また、超高Sn濃度線材でのヤング率の
変化を報告した。
1C-a03:杉本(古河電工)は、PVF被覆したR&W法によるCu-Nb/Nb3Sn線材について、被覆なしのR&W法Nb3Sn線材と同様に、コイル巻線で±0.3%の
歪を印加しても特性の低下はないと報告した。
1C-a04:森田(上智大)は、ブラス母材内部スズ法において、Nbコア、Snコア、ブラス母材へのTi添加ついて比較し、母材へのTi添加では、熱処理
後のボイドの生成が抑制されること、Nb3Sn結晶粒が微細化されることから、Ti添加量の増加により更なる特性向上が期待できると報告した。
1C-a05:伴野(NIMS)は、Ti添加ブラス母材において、15 wt%と12 wt%の異なるZn濃度を有するブラス母材の影響を調べ、12 wt%Znの方がNbフィラ
メント間でのボイドの発生が少なく、また、NbフィラメントへのSn、Tiの拡散が促進されていると報告した。
1C-A06:川島(神戸製鋼)は、分散Sn法Nb3Sn線材の開発について報告した。Ti添加量の異なる3種のSnソースを用いた線材の開発を行い、Ti添加量
を低減した線材において、17 T以下のJcが向上し、non-Cu Jc=1,137 A/mm2 at 16 T, 4.2 Kが得られ、熱処理条件や断面設計の改善によって更なるJc
向上が期待できると報告した。


加速器(2) 1C-p01-06 座長 夏目 恭平

1C-p01 菅野(KEK):LHC高輝度アップグレード用超伝導磁石の開発(12)-2 mモデル磁石2号機の設計と製作-という講演題名。CERNから
の要請により、これまでR190、90°、180°の位置に1個ずつあった熱交換器の穴が、R227.5、45°周期の4個の穴に変更となり、これに伴う
磁場設計のアップデートが行われた。また、2号機では1b号機よりもさらに予備応力を増加させ、115 MPaを目標値とした。さらに、コイル
エンド部分に樹脂の塗り巻きを適用した。
1C-p02 鈴木(KEK):LHC高輝度アップグレード用超伝導磁石の開発(13)-2 mモデル磁石2号機の励磁試験結果-という講演題名。設計
では予備応力を115 MPaを目標としていたが、ヨーキング後のコイル円周方向応力は111 MPaとなり、ほぼ設計通りとなった。予備応力の増加
に伴うクエンチ性能の向上を確認した。電圧タップとアンテナから得られたクエンチ発生箇所の同定には矛盾がなかった。
1C-p03 王(KEK):加速器用HTSマグネット開発(7-1)-77 Kと4.2 Kにおける六極モデルマグネットの励磁試験-という講演題名。液体窒素
と液体ヘリウムの浸漬冷却下で行ったREBCO六極モデル磁石の励磁試験結果について報告があった。4.2 Kでは、設計電流までの通電としている。
77 Kで評価した各コイルの臨界電流及び接続抵抗は、フジクラでの磁石製作後の測定結果と同程度となり、輸送での劣化は確認されなかった。
また、遮断試験後の再励磁において、電圧信号に異常はなく磁石の健全性を確認した。
1C-p04 有本(KEK):加速器用HTSマグネット開発(7-2)-77 Kと4.2 Kでの磁場測定-という講演題名。磁場測定には、縦型クライオスタット
とハーモニックコイルを用いた。磁場測定の結果、8極と10極の多極磁場成分は1.4 units以下に抑えられていることがわかった。
1C-p05 高山(東芝ES):高温超伝導マグネットのHIMACビームラインにおける試験(1)ビーム試験用マグネットの励磁試験結果という講演題名。
本マグネットは4積層のREBCOレーストラックコイルを上下にスプリット配置する構造で、ビーム窓とビームダクトを有している。通電試験の結果、
コイル電圧の発生はなく、ホール素子による測定によるとダクト中心で約2.4 T、最大経験磁場で約4 Tとなっていると推定される結果を得た。
磁場分布測定も行い、概ね設計通り試作できていることを確認した。
1C-p06 雨宮(京大):高温超伝導マグネットのHIMACビームラインにおける試験(2)ビーム誘導試験およびビーム入射試験の結果という講演題名。
回転ピックアップコイルを用いたビームダクト内の磁界安定度の評価を行った結果、遮蔽電流のビーム誘導特性に与える影響は無視できる程度で
あった。ビーム誘導試験を行い、蛍光板ビームモニタによるビームスポット位置観測結果から、ビーム偏向角度の理論値と十分一致していると判断
できた。コイルへのビーム入射試験は、アルミニウム製ビーム窓を通して行い、ビーム入射時の温度上昇が小さく、常伝導部の発生は見られなかった。


核融合 1C-p07-10 座長 梶谷 秀樹

本セッションでは、核融合に関し4件の発表があった。
1C-p07:柳(NIFS)らは、高温超電導体の開発状況やLHDの次期計画について報告した。導体の接続抵抗については、数nΩオーダー
の低抵抗を実現できており、熱処理を施すことによって、さらに低減できることが説明された。LHD次期計画についても、着実に設計
活動が進んでいることが示された。
1C-p08:三戸(NIFS)らは、LHD次期装置への適用を目指しているREBCO導体の開発状況について報告した。設計検討を行っているREBCO
導体を用いたコイル構造では、ITER TFコイルよりも、高電流密度が達成可能であることが示された。
1C-p09:高橋(鹿児島大学)らは、REBCO導体内の線材間接触抵抗評価について報告した。導体内を模擬した線材間接触抵抗測定の結果、
本接触抵抗は、他の抵抗要素に比べて大きいため、線材間接触抵抗の低減及びその正確な測定方法の確立が重要であることが示された。
1C-p10:村上(量研機構)らは、JT-60SAの中心ソレノイド(CS)及びコイルターミナルボックス(CTB)の製作進捗について報告した。
CSについては、積層まで問題なく完了し、2019年初めにトカマクに組み込まれる予定であることが示された。CTBについても、同様に
製作が進んでおり、2019年夏頃からトカマクに組み込まれる予定であることが示された。


11月19日(月)
D会場

冷却システム 1D-a01-06 座長 仲井 浩孝

1D-a01:麻生(原子力機構)らは、J-PARC大強度中性子源の液体水素循環シス テムに使用されているヘリウム冷凍機で発生する圧力損失
の原因を究明するために、熱交換器や油分離器等に差圧計を設置し、圧力損失を計測している。内部吸着器のフェルトに油が蓄積していた
ため、油蓄積のなかったロックウールに交換して圧力損失上昇を防ぐ予定である。陽子ビームの大強度試験では、液体水素循環システムの
制御動作を確認できた。
1D-a02:大塚(住重)らは、X線天文衛星「Athena」のX線カロリメータ冷却装置として、ジュールトムソン冷凍機等の機械式冷凍機とADR
を組合せた装置を採用している。実証試験では、室温から50 mKまで寒剤なしで冷却できた。冷凍機性能に対する重力の影響を確認するため
に、冷凍機の向きを変えて評価を行ったが、性能は少しは変動するものの、仕様を満足できなくなるほどの変化ではない。
1D-a03:山口(中部大)らは、石狩超電導直流ケーブル断熱配管に用いられている多層断熱膜 (MLI)の性能評価の一環として、アルミ蒸着
膜間のスペーサー両面の温度を簡易に測定する装置を開発し、スペーサーの材質の違いなどによる熱侵入量の違いを明らかにした。スペーサー
にかかる重さや熱電対を取り付けた金属板の表面状態によっても温度が変化する。この測定では、層間の真空度は変化しておらず、実機でも
炭酸ガス置換を行って層間に空気が残らないようにしているので、層間真空度の影響はないと考えられる。
1D-a04:渡邉(中部大)らは、超伝導送電用真空断熱配管のコンダクタンスをモンテカルロ法で評価する方法を確立し、断熱二重配管内の
配管の配置によるコンダクタンスの違いを明らかにした。内管が管軸から外れている方が外管中心部の空間が大きくなるため、コンダクタンス
が大きくなる傾向がある。サポートの影響も形状が単純であればすぐに計算できる。配管内にMLIがある場合、コンダクタンスの計算に含める
のは難しいが、同軸円筒として近似させるなどの方法が考えられる。
1D-a05:下田(前川製作所)らは、高温超電導ケーブルを冷却するために、メンテナンス間隔を長くできるブライトン冷凍機を導入し、長期間
のメンテナンス無し運転を実証した。冷却水温度が上がると、膨張機へ入るネオンガスの温度も上昇するためCOPが低下する。気温変化や電流値
の変化に伴ってケーブルからの熱負荷が変動する場合でも、循環するネオンガスの密度を変化させて冷却システムの能力を調整し、冷凍機出口
の状態を一定に保っている。
1D-a06:岩本(NIFS)は、核融合研の次期計画として検討の始まった大型高温超伝導マグネットの冷媒として水素を用いる提案を行った。大型
超伝導マグネット冷却の検討項目として、冷媒の熱輸送能力や配管流路での圧力損失などを考察し、条件によってはヘリウムよりも水素が優位
であることが分かった。実現には水素の液化などの工業的な問題はあるが、高圧ガスとしてはそれほど高い圧力ではないので高圧ガス施設と
しては成り立つであろう。


小型冷凍機 1D-p01-04 座長 水野 克俊

1D-p01:朱(同済大)は、常温ディスプレーサパルス管冷凍機は熱力学的にはスターリング冷凍機と似ており、スターリング冷凍機の等温
モデルを改良して用いることができることを報告した。エクセルで計算可能なレベルであり、数値解析では数時間かかっていたものが
数分で解くことができることを示した。
1D-p02:増山(大島商船)らは、4 K GM冷凍機の2段ディスプレーサ鉛部分にステンレスパイプを用いることでガスの流れを改善し、能力が
向上することを示した。フレキシブルチューブの径や長さを変更しても、性能が向上することを確認した。ガス流量の増加によって能力が
改善したとみられる。
1D-p03:渡辺(金沢大)らは、HoCu2の比熱、磁化を測定した。冷凍機内部での磁場変動や温度変化に伴う渦電流を計算したが、発熱は極めて
微小であり、冷凍能力に影響することはないことを明らかにした。
iD-p04:平山(住重)らは、磁場中でのパルス管冷凍機とGM冷凍機の能力を測定した。GM冷凍機は磁場増加に伴い緩やかに能力低下したのに対し、
パルス管冷凍機では4 Tを超えたところで急激に能力低下した。畜冷材の物性やGM冷凍機固有の特徴などに着目して原因解明を目指すとのこと
である。


小型冷凍機教育 1D-p05-08 座長 平山 貴士

本セッションでは2018年8月に行われた低温技術夏合宿(77 K小型冷凍機を作ろう)について、参加者側からの活動報告が行われた。
1D-p05:野村(明星大)らは全体の概要について説明し、蓄冷材の変更・MLIの装着により、到達温度38 Kを達成したことが報告された。また
座学では低温の基礎知識から講師陣の経験談などを聞くことができ、参加者にとって非常に有益であったことが示された。
1D-p06:髙橋(大陽日酸)らは電磁弁を用いて、ベーシック/オリフィス/ダブルインレット/4バルブ型の各々において、パルス管中間部温度が
どのように変化するかを示された。
1D-p07:宮野(明星大)らはロータリー弁を用いたダブルインレット型パルス管冷凍機におけるダブルインレットオリフィス開度とバッファ
オリフィス開度の影響を示された。
1D-p05:野村(明星大)らはMLIの有無による冷凍機到達温度の変化を示した。輻射熱の計算と実機での試験結果についてロータリー弁方式では
よく一致しているが、電磁弁方式では乖離があり、センサーが浮いていた等の低温測定技術について活発な議論がなされた。
以上のように本セッションを通して低温技術夏合宿の成果だけでなく、講習会としての意義を広める、大変有意義なセッションであった。


液体水素・超流動ヘリウム 1D-p09-11 座長 麻生 智一

1D-p09:臼井(神戸大)らは、液体水素の海上輸送の効率化に向けて液体水素の蒸発による損失を抑えるため、液体窒素による蒸発特性の
予備実験を行った。速い減圧速度で蒸発量が少ない結果が示され、成層状態での条件に対する議論があった。
1D-p10:佐藤(神戸大)らは、液体水素の輸送における水素のパラ・オルト変換の経時変化を把握する必要性から、蒸発ガスのオルト・パラ
組成比を測定した。パラ・オルト変換速度は容器の内容積に依らず、内圧による分子衝突で促進されることを確認し、パラ水素濃度経時変化
の減少率は徐々に小さくなることが報告された。
1D-p11:高田(核融合研)らは、微小重力下のHe Ⅱ沸騰実験においてλ点近傍で気液界面からの熱伝達が大きくなる現象について、沸騰モード
がノイジー膜沸騰領域に移行したことによるものとの考察が報告された。λ点近傍でのより多くのデータを収集したいとのことでその解明に
期待したい。


11月19日(月)
P会場 ポスターセッションI

計測・基礎 1P-p01-02 座長 木村 誠宏

1P-p01 (竹内(RIMTEC)、水野ら(鉄道総研))は高温超伝導磁石用の充填剤として低粘度熱硬化樹脂の評価結果を報告した。液体窒素温度
でエポキシ樹脂が降伏しないのに対して、同樹脂はエポキシ樹脂と同程度の強度を持つが降伏することから破壊しにくい特性であることが示
された。今後、ガラス繊維を組み合わせた複合化や熱伝導特性さらに加速器用超伝導磁石への応用を目指して耐放射線特性についても研究を
進められることが望まれる。
1P-p02 (田中ら(九大)、小黒(東海大)、杉野ら(ジェック東理社)は超電導式液面計用の表示器の開発報告であった。汎用のモジュール
を利用して液面計表示器のコストを下げる工夫をしたとの事であった。表示器に使用するセンサーは超電導センサーとその常伝導部の電気抵抗
特性が同一の常伝導センサーを直列に接続する構造で、超電導センサーと常伝導センサーとの電位差を検出して液面高さに変換・表示を行うとの
説明であった。常伝導部の電気抵抗特性がセンサーの精度を決めると推測されることから、どのようにしてセンサー部の特性を合わせ込むかに
ついて今後に期待したい。


大型冷却システム 1P-p03-04 座長 岩本 晃史

「1P-p03:イワノフ(中部大)」は超伝導ケーブル冷媒の循環動力を低減させるために低流体抵抗を実現するパイプラインの検討について報告
した。表面の微小な凹凸は流体摩擦を低減させることができ、蓮の葉の表面構造や鮫の皮膚の構造を模擬したパイプラインの内面構造にする
ことで流体抵抗低減の可能性を議論した。
「1P-p04:田中(TSテクノサポート)」は半導体製造過程で使用され混合ガスとして排出されるアンモニアを極低温技術を用いて除害する方法
について報告した。通常アンモニアは燃焼除害されるが、その生成物である窒素酸化物が問題となっている。提案している低温での液化・固化
回収方法を使用することで窒素酸化物を生成することなく、同時にアンモニアの放出量を極めて低く抑えることができる。また、回収により
再利用も可能になっている。


ヒートパイプ 1P-p05-06 座長 平野 直樹

1P-p05 信國(鹿児島大):複数の自励振動式ヒートパイプを用いた高温超電導コイルの冷却システム開発の研究である。アルミなどの伝熱体
に比べ、ヒートパイプを用いることで、熱輸送特性が優れていることを解析により確認し、小型冷凍機やヘリウムガス循環の実験環境を整え、
ヒートパイプの性能評価試験の準備を進めている。使用する気体の種類に関してや、自励振動する動作原理等に関する質問が寄せられ、関心の
高さが伺えた。
1P-p06 Wanison(総研大):タイからの留学生で、研究を初めて2年目とのことである。液体窒素温度域におけるヒートパイプの伝熱特性に
関する基礎研究である。ヒートパイプの内面形状の突起や銅の焼結体で覆うことによる伝熱性能への影響などを解析中心で検討している。
ヒートパイプの長さや内径などの形状の特性への影響などに質問が集まっていた。今後は、銅などの伝熱体に比べ伝熱性能が高い温度域への
ヒートパイプの適用を目指した検討を進めるとのことであった。


MgB2(1) 1P-p07-09 座長 児玉 一宗

1P-p07 NIMSの藤井らは、ex situ法によるMgB2テープ線材の作製プロセスにおいて、市販MgB2粉末の遊星ボールミル粉砕条件と線材化後の熱処理
条件が、MgB2の結晶性(結晶子径,歪)と超伝導特性(TcJc)に与える影響を系統的に調べた結果について報告した。
1P-p09 KEKの槇田らは、液体水素冷却SMES向けに開発を進めるMgB2ラザフォードケーブルにおける性能劣化の原因を調べ、撚線成形時にフィラ
メントを囲むNbバリアが破れてMgB2生成熱処理時に意図しない反応(MgCu2の生成)が起こるためと結論づけた。また、Nbバリアが破れ難い断面
構成を線材メーカーに提案中とのことであった。


HTS線材評価 1P-p10-14 座長 井上 昌睦

1P-p10:舩木(島根大)らは、REBCO線材の導電性中間層に用いるNb-TiO2薄膜の作製について研究を進めており、今回は、Nb-TiO2層の導電性
がREBCO層の成膜や酸素アニールの環境を経てどのように変化するかを調査し報告した。室温での成膜プロセスを経て得られたNb-TiO2薄膜は
0.73 mΩcmと良好な導電性を示すものの、500℃の酸素分圧調整アニール後には抵抗率が1桁増加し、600℃、700℃では半導体的なρ-T
特性となった。この原因は酸素分圧調整アニール温度の上昇に伴いキャリア密度が低下したためと考えられることから、今後はドープ量を
増やす予定とのことである。
1P-p11:米塚(九工大)らは、柱状ピンを導入した際のJcの角度依存性を3次元のTDGL方程式を用いたシミュレーションで求める研究に取り
組んでおり、今回は、外部磁場と通電電流とが直交している状態で、柱状ピンの向きを磁場に平行な角度(0°)から電流に平行な角度(90°)
へと変化させた際のJcの変化について解析を行った。Jcは0°で最高、90°で最低となる振る舞いが得られたものの、20°から30°にかけてJc
急激に減少していた。これはシミュレーションの設定に起因するものと思われる。
1P-p12:中山(鹿児島大)らは、極小ピックアップコイルによるマルチフィラメントHTS線材の電流分布測定について報告を行った。コイル幅
を狭くして空間分解能を上げるとともに、ピックアップコイルの保護用フィルムの厚みを70 μmから10 μmに薄くすることでリフトオフ距離を
短くして検出信号の増大を図った結果、従来は50%程度であった誤差率が20%程度まで改善できたとのことである。今後は電流分布を求める手法
を改善することにより更なる誤差率改善が見込めるものと思われる。
1P-p13:米中(九工大)らは、REBCO線材の縦磁界効果を利用したJcの膜厚依存性の評価について報告を行った。PLD法により作製されたREBCO膜
では、膜厚がある程度厚くなると結晶配向性の低下により膜厚に対するIcの増加が緩やかになることが知られている。この現象を、結晶配向性に
強く依存する縦磁界効果で調べてみたところ、横磁界下ではJcに差が見られない領域から縦磁界効果の低減が見え始めたとのことである。今後、
組織や組成との対応を調べていくことが望まれる。
1P-p14:小黒(東海大)らは、新しく作製した静水圧ひずみ印加装置の仕様と試験結果について報告を行った。新設した装置は、高圧セルを用いた
静水圧ひずみ印加装置で、低温磁場中にて曲げひずみを印加するための冶具も用意されている。銅とTi-6Al-4V合金のそれぞれで製作した曲げひずみ
印加冶具にREBCO線材を取り付けて試験したところ、Ti合金であれば接触が保たれ、設計したひずみが発生したとのことである。


バルク応用 1P-p15 座長 横山 和哉

1P-p15:紀井(京大)は、アンジュレータ用の磁場解析手法について、有限要素法では莫大な時間がかかる問題に対して、粒子法
(MPS法)を適用し、ナビエ・ストークス方程式の外力項を電磁力として扱うことを提案した。


遮蔽電流磁場(1) 1P-p16-17 座長 津田 理

1P-p16 盛川 瑛亮:HTSコイル(innerコイル)とLTSコイル(outerコイル)で構成される500 MHzNMR用マグネットにおいて、マグネット中心部
の磁場均一度と遮蔽電流磁場変化を、高速多重極法や超電導特性を考慮した非線形有限要素法に基づく三次元電磁場数値解析を行った。HTS
コイルを136 Aまで励磁した際のマグネット中心発生磁場が2.33Tであるのに対して、遮蔽電流磁場は40 mT程度であり、コイル軸上に大きな
不整磁場が発生することを確認した。
1P-p17 稲垣 善太:HTSマグネットのヒステリシスを利用したオーバーシュート法を適用することにより目標電流到達時の遮蔽電流磁場の
大きさを0(G)に近づけることが、マグネット中心部の磁場均一性や遮蔽電流磁場の変動抑制に及ぼす影響について検討した。オーバーシュート
量を適切に制御できれば、磁場均一度が向上することを確認したが遮蔽電流磁場をゼロにすることと遮蔽電流磁場変化の関係については今後の
課題である。


解析・特性評価 1P-p19-23 座長 宮崎 寛史

「1P-p19:尾下(早稲田大)」NIコイルで局所的に常伝導転移が発生した場合の電磁的な振る舞いを実験および解析で評価した結果に
ついて報告した。実験ではヒータ投入で常伝導転移を再現したが、計算では、有限の抵抗が発生したと仮定した点が実際の現象とは
異なっているが、中心磁場、電圧等、実験と解析がほぼ一致することを示した。
「1P-p20:許航(明治大)」磁性粒子誘導加熱ハイパーサーミアを目指して、高周波磁場発生装置を設計するため、フェライトと銅線
を組み合わせて試作した高周波電磁石コイルのインピーダンス周波数特性について報告した。
「1P-p21:井上(京大)」MgB2線材の最小曲げ半径を測定するため、電流-電圧特性と電流端子から超電導線材への電流の流れ込みの
関係について調査した。シースが高抵抗の場合には、電流端子から30 mm以上離れた位置で電圧を測定する必要があることを実験的
に明らかにした。
「1P-p22:李陽(京大)」ダブルパンケーキコイルを積層したコイルにおいて、鉄心の有無がACロスに与える影響を評価した結果に
ついて報告した。
「1P-p23:横山(九大)」2枚バンドルしたHTSインサートコイルの交流損失について検討した結果を報告した。2枚のHTS線材にツイスト
が施されていないため、磁気結合によりテープ面平行磁場に対して損失が大きくなる結果を示した。


JT-60SA 1P-p24-26 座長 王 旭東

1P-p25 夏目(量研機構):JT-60SAのダイバータクライオポンプ用バルブユニットの設計について報告された。既存設備を再利用
するため、新たにバルブボックスを設置する空間がない。そのため、本来は垂直に配置される低温弁を30度傾けて設置することとなり、
計算上熱侵入量が約4倍に増える。系統全体の熱侵入量に対する影響が懸念される。また、取り外しのために低温弁とトカマククライオ
スタットの間はフレキシブルチューブで接続され、15 Aのチューブの圧力損失は約6 kPaとなる。
1P-p26 福井(量研機構):JT-60SAのパルス運転時の発熱による冷媒流量の変化、循環器の差圧についての解析評価を報告された。
CSコイルに±20 kAのパルス通電が想定されているため、発熱による急激な冷媒膨張から循環器の入口出口の差圧変動が発生する。
差圧変動が許容できる範囲を逸脱すると循環器が停止する可能性がある。熱流体解析コードFLOWERとTHEAを用いて、各コイルの最大
熱負荷となる冷却流路のみを選択し、並列に循環器と接続したモデルから差圧の解析が行われた。許容できる差圧33 kPaに対して、
今回の解析結果は14 kPaである。今後も他の想定されるパルス通電パターンに応じた解析評価を行う予定である。


加速器(1) 1P-p27-28 座長 村上 陽之

1P-p27 栗津(岡山大):REBCO線材を用いた空芯型サイクロトロンに生じる電磁力評価に関する発表である。線材内に生じる遮蔽電流
による考慮し評価を行っており、線材の上部と下部で異なる力が生じるなど遮蔽電流が構造評価に与える影響が大きいことを示した。
今後、遮蔽電流を含めた電磁力を用いた空芯型サイクロトロンの構造評価を行う計画であり、実用化に向けた設計が加速されることが
期待できる。
1P-p28 黒澤(KEK):J-PARCで用いられる超伝導ソレノイド磁石の性能確認試験に関する発表である。2015年に製作されたコイルの実機
運用を前に、現地での励磁試験を実施した。冷却試験および通電試験、遮断試験を行い、納品前と同等の結果が得られ問題ないことが確認
された。本試験の結果をもって、電流の掃引速度など実運転時の運転パラメータを決定し、今後の運用に問題がないことを確認している。




11月20日(火)
A会場

MRI/遮蔽電流磁場(2) 2A-a01-05 座長 柳澤 吉紀

2A-a01:横山(三菱電機)らは、MRI用1/2サイズのアクティブシールド型3 TREBCO磁石の開発状況を報告した。線材の総長は72 kmあり、
220枚のシングルパンケーキを積層し、伝導冷却する。現在において最大級のREBCO磁石であると言える。現在製作中で、コイル特性の
歩留まりに課題があるとのことである。
2A-a02: 三浦(三菱電機)らは、MRI用1/2サイズアクティブシールド型5 TREBCO磁石について、最適設計を行った。コイル配置の工夫
により軸圧縮応力を大きく低減でき、また、人工ピン入り線材の導入によりコイル電流密度を上げられることを示した。
2A-a03:金丸(東北大)らは、MRI用REBCO磁石について、繰り返しオーバーシュート法によって遮蔽電流緩和に起因した磁場ドリフト
を抑制する効果について報告した。
2A-a04:曽我部(京大)らは加速器用高温超伝導二極マグネットにおける遮蔽電流磁場を通電電流制御によって低減する方法と、補正用
六極コイルとの組み合わせによる低減法を報告した。粒子線加速器の実運転に関連した議論があった。
2A-a05:野口(北大)らは、REBCOパンケーキコイルの遮蔽電流磁場を計算できるウェブサイトを作り、公開した。ユーザ登録することで
使用できる。非円形コイル等への拡張もありうるとのことである。


安定性保護 2A-a06-11 座長 淡路 智

本セッションでは高温超伝導コイルにおける安定性と保護に関して6件の報告が行われた。すべての報告は、無絶縁(NI: Non-Insulation)
あるいは導電性絶縁を施したコイルに関するもので、高温超伝導マグネットの保護においてターン間に導電性を持たせた手法の重要性が
認識できる。すべての報告が対象としているのは希土類系高温超伝導線材であった。以下にその詳細を示す。
2A-a06の講演で早稲田大の石山らは、多くの欠陥がある無絶縁REBCOパンケーキコイルの数値シミュレーション結果について報告した。
絶縁コイルでは欠陥によってコイル臨界電流が大幅に減少するが、無絶縁の場合には欠陥のないコイルの99%近くまで通電が可能と報告した。
数値シュミレーションによる電流分布から、無絶縁によって欠陥部分を迂回した電流が流れることが改めて確認された。これらの振る舞いは
欠陥の長さによらないとのことである。
2A-a07の講演で上智大の高橋らも、劣化した無絶縁REBCOパンケーキコイルについて報告した。ターン間抵抗(接触抵抗)を変化させた数値
シミュレーションにより、ターン間抵抗が小さいほどコイル臨界電流が大きくなる傾向を示し、100 μΩ/cm2以上では絶縁コイルとほぼ同等
となると報告した。
2A-a08の講演で千葉大の末富らは、無絶縁レイヤー巻きコイルと無絶縁ダブルパンケーキコイルのクエンチ特性の比較について報告した。
常伝導領域の発生によってシングルターンモード(電流がバイパスしてシングルターンとなってしまう現象)がパンケーキ毎に起こるNI
パンケーキコイルとは対照的に、NIレイヤー巻きコイルではレイヤー毎にバイパスができるため、磁場減衰が連続的に起こると報告した。
これは、NIレイヤー巻きコイルでは、レイヤー間の強い磁気的結合によりクエンチ伝搬が加速されるためと考えられるとした。
2A-a09の講演で北大の野口らは、NIコイルのターン間接触抵抗の評価方法として、インダクタンスと抵抗の等価回路を想定した交流インピー
ダンス測定による方法を提案した。この場合、周波数が十分高い場合には、インダクタンスを含む虚数成分が無視できるためインピーダンス
が接触抵抗と等しくなると予想できる。実際にNIコイルの周波数依存性を測定した結果、最適な周波数を選ぶことで接触抵抗の測定が可能と
なると報告した。
2A-a10と2A-a11の講演で東芝の宮崎らと岩井らは、導電性樹脂を用いたコイル保護技術について報告した。宮崎らは通常ターン間を無絶縁に
する代わりに含浸する樹脂に導電性をもたすことで、NIコイルと同等の機能を持たせることを提案している。今回は内径100 mm、200ターンの
パンケーキコイルを作製し、通常の樹脂と導電性樹脂を用いた結果について、導電性樹脂を用いた場合には、無絶縁コイルと同様にバイパスに
よる保護が確認されたと報告した。さらに岩井らは、大口径コイルを6積層した導電性樹脂含浸パンケーキコイルを作製し、保護動作について
報告した。コイルは内径501 mm、156ターンのパンケーキコイルを6積層したもので、一部のコイルから電圧発生しても安定に通電できることが
確認でき、コイルIc = 40 Aよりも大きい52 Aで熱暴走を確認した。さらに磁場減衰時定数から求めた平均ターン間抵抗が12-34 Ωとなったと
報告した。これらの結果から、比較的大きなコイルでも導電性樹脂含浸による保護が可能であるとした。


11月20日(火)
B会場

Y系線材MOD法 2B-a01-05 座長 松本 要

学会期間の2日目午前にY系線材MOD法のセッションがあり、5件の発表がなされた。ここではその発表内容について簡単に述べる。
川浪隼也(成蹊大)ら(2B-a01)は、BHOを含むTFA-MOD法(Y、Gd)BCO線材の磁場中Jc特性に与える中間熱処理温度の影響を調べた。これまで、
同線材ではBHOナノ粒子が主要なピン止め点となっており、ナノ粒子のサイズと密度が特性に影響を及ぼすことが分かっていた。そこで今回、
中間熱処理温度を550~600℃で細かく振って試料を作製したところ570℃で作製したものが最も高いJcsf=5.8 MA/cm2を示すことを明らかにした。
磁場印加角度依存性の調査においてもこの試料の特性が最も優れており、ナノ粒子のサイズや分布に影響を及ぼしていることが分かった。同
グループはこれ以外にもMOD法において多層構造薄膜を用いることで、高いJcが得られることを報告している。
佐藤慶一(成蹊大)ら(2B-a02)は、縦磁場中超伝導特性の向上をねらって、この手法の最適化を進めた。①(Y、Gd)BCO 単層膜、②(Y、Gd)BCO+
BZO/(Y、Gd)BCO多層膜、③ (Y、Gd)BCO+BHO/(Y、Gd)BCO多層膜を作製して比較したとこと、③の組み合わせにおいて最も優れた縦磁場中Jcを得る
ことに成功した。発表では縦磁場中のJc決定機構の詳細については触れられていないが、ねじれた磁束線の運動を③の構造も最も有効に抑えること
ができるためと考えられよう。
元木貴則(青学大)ら(2B-a03)は、フッ素フリーMOD法によるREBCO線材の2軸配向中間層に適した材料の開発を行った。今回はREBCOと格子整合性がよく
導電性のある中間層候補としてLa2126を検討した。STO基板上にスピンコート法でLa2126膜を形成したのちYBCOをMOD法で形成したところエピタキシャル
成長を確認したが、Tcの低下が確認された。TEM等の断面観察によれば何らかの界面反応が起こっている可能性が示唆された。
同グループの池田周平(青学大, 2B-a04)は、金属Clad基板上にフッ素フリーMOD法によりYBCO薄膜を形成し、特に厚膜化について検討を行った。従来の
一回焼成による厚膜手法では0.8 μm厚以上ではJc低下が起こったが、複数回焼成(12層薄膜)では2 μm厚でもIc増大が確認され、Jc低下は少ないものと
考えられた。さらなる厚膜化も検討するとのことである。一方、同グループの権藤紳吉(青学大, 2B-a05)はフッ素フリーMOD法で作製したYBCO薄膜に
対して、水蒸気を含んだ酸素気流中で後熱処理することで意図的に積層欠陥を導入する研究を報告した。積層欠陥は低磁場下においてJc特性向上に有効
とのこと。報告では、300℃において、様々な時間で熱処理を行ったところ、1 minにおいてもすでに積層欠陥が形成され、10 hでもその量は増え続けて
いくことを示した。この手法で積層欠陥の密度が制御できるならば、ピン止め制御の一手法として興味深い。


Y系線材ピンニング特性・製造 2B-a06-10 座長 東川 甲平

本セッションでは、Y系線材ピンニング特性・製造について5件の報告があった。
2B-a06:藤田(フジクラ)らは、Hot-wall PLDによるBHO-EuBCO線材のピンニング特性について報告した。人工ピン入りの600 m
級の均一な線材の作製に成功しており、販売が開始される見込みとなった。これにあたり、Jcの優劣のみではなく、製造速度
あたりの特性という指標が議論され、製造速度によって変化する組織とピンニング特性についての質疑応答が活発となっていた。
2B-a07:鳥越(九工大)らは、ナノロッドセグメント化によるYBa2Cu3O7-x薄膜の臨界電流密度制御について報告した。BHOを含む層の
間にpureのYBCO層やY2O3を含む層を導入した際のJcの磁界・磁界印加角度依存性について報告した。
2B-a08:松下(九工大)らは、磁束ピンニングによる臨界電流密度の上限に関する理論的考察について報告した。従来の対破壊電流
密度は実用的なJcの上限値としては不適なため、ピンニングの観点から理論を整理したところ、Tinkhamによる最大値よりも限界は大きい
ことがわかったが、ナノロッドを導入したREBCOコート線材を想定した場合には、その30%程度に留まることが分かった。
2B-a09:町(産総研)らは、レーザースクライビング加工法におけるマルチビーム化の課題について報告した。ホモジナイザーに
用いた複数のシリンドリカルレンズの影響から、集光レンズの高さによってビームが必要以上に分裂してしまうことを明らかとし、
その高さ依存性を調査して最適位置に調整することにより、最終的には加工に成功する見込みとなった。
2B-a10:金(室蘭工大)らは、内部スプリット法によるREBCO多芯テープ線の開発について報告した。線材を折り曲げることによって
長さ方向にクラックが入ることを利用した多芯構造を確認し、Icの低下も顕著ではなく磁界中ではむしろ向上することを報告していた。
交流損失の測定はこれからとのことである。




11月20日(火)
C会場

企画テーマセッション「デバイスと冷凍システム」(1) 2C-a01-05 座長 日高 睦夫

超電導デバイスの視点から他学会との差別化を考えた場合、低温工学・超電導学会の特徴の一つに冷凍機関係者が多く参加していることが
挙げられる。冷凍機システムは超伝導デバイスを実用化するための必須のアイテムであり、デバイス研究者の冷凍機システムに関する関心
は高い。本学会をデバイス、冷凍機双方にとって実りのあるものとするために、今回初めての試みとして企画テーマセッション「デバイスと
冷凍システム」が開催された。デバイス側からは、高温超伝導デバイスに用いる小型スターリング冷凍機(山形大大嶋先生)、4 Kデバイス
(デジタル)用GM冷凍機(名大田中先生)、4 Kデバイス(アナログ)用GM冷凍機(NICT寺井氏)、0.1 K検出器用断熱消磁冷凍機(ADR)
(産総研佐藤氏)、0.01 K量子コンピュータ用の希釈冷凍機(産総研猪股氏)の5件の発表があった。それぞれ冷凍機実装の工夫や冷凍機へ
の要求が述べられた。冷凍システム側からは、小型2K-GM冷凍機(住重李氏)、検出器用希釈冷凍機(大陽日酸伊藤氏)の2件の発表が行われ、
最先端技術の紹介があった。普段なかなか聞けない話がまとめて聞ける機会であり、デバイス側冷凍機側双方からの活発な質問が行われ、
大いに盛り上がった。セッション終了後もそこかしこでデバイス側の人と冷凍機側の人が議論する姿が見られた。


企画テーマセッション「デバイスと冷凍システム」(2) 2C-a06-09 座長 大島 重利

電導デバイスを実用化するためには冷凍機を利用することが不可欠であり、低温工学・超電導学会でこのようなセッションを企画することは
重要なことであり、またタイムリーでもある。このセッションは、低温超電導デバイスの研究・実用化に必要な冷凍機の開発状況や単一磁束
量子回路の研究について以下の4件の発表があった。
2C-a06:李(住重)らは,低温超電導デバイス用の小型2KGM冷凍機の開発において、ユーザーの要望である冷凍機の小型化について、その開発
状況を報告した。
2C-a07:伊藤(大陽日酸)らはTESデバイス用の100mK希釈冷凍機の開発において、デバイス動作で問題となる機械的振動の低下について報告した。
2C-a08:冨塚(横浜国大)らは、単一磁束量子回路をイメージング検出素子に応用することを考え、空間分解能を上げるために必要な素子の高時間
分解能について報告した。
2C-a09:真田(横浜国大)らは、単一磁束量子論理回路の高性能化に重要な浮動小数点型除算器について、その設計と測定について報告した。




11月20日(火)
D会場

SuperKEKB 2D-a01-04 座長 井口 将秀

2D-a01 有本(KEK):SuperKEKBの最終収束超電導磁石システム(QCS)のコミッショニングの概要について導入説明がなされた。SupeKEKB
は、3段階に分けてコミッショニングを進めており、今回の報告対象であるPhase2では、最終収束超電導磁石システム(QCS)有での加速器
ビーム調整が実施された。その結果の概要と、SuperKEKBセッションで報告される残り3件の発表の導入について説明がなされた。
2D-a02 王(KEK):Phase2運転中に生じたQCSのクエンチ事例について報告がなされた。発生事象を、時系列、発生コイル、種類等で系統
立てて分類し、発生原因を分析した結果が報告された。今後、原因分析結果をもとにQCSの修正よび改善を進めていく予定であることが報告
された。
2D-a03 宗(KEK):Phase2におけるQCS冷却システムの運転結果について報告された。システムの冷却能力に対するPhase2運転時の余剰冷却
能力は20~40 Wであり、今後Phase3運転を控えて、対策を検討する必要がある旨報告がなされた。
2D-a04 青木(KEK):SuperKEKBのPhase2運転時の冷凍システム用モニタリングシステムの運用結果について報告された。セキュリティ向上
のために外部からのネットワークの切り離したこと、データベースを2セット用意することで冗長性を持たせたことなどが報告されるとともに、
Phase2で得た改善点についても説明がなされた。Phase2の結果をもとに今後も改善を続ける計画であることが報告された。


ITER 2D-a05-10 座長 菅野 未知央

2D-a05:小泉(量研機構)らは、日本におけるITER-TFコイルの製作の全体進捗について報告した。公差の厳しいコイルおよびコイル容器
の製作を複数社で協力して行なうことの難しさが説明された。
2D-a06:葛西(三菱電機)らは、ITER-TFコイル巻線部の初号機製作について報告した。ダブルパンケーキ間の積層位置精度0.1 mmなど、
厳しい公差をクリアして初号機が完成したとのことである。
2D-a07:井口(量研機構)らは、ITER-TFコイル容器の製作について報告した。大型構造物の自重によるたわみを軽減するために、新たに
準備した支持機構を用いることで、サブミリオーダーでの形状維持を実現している。溶接時の室温の影響について質問が出た。
2D-08:梶谷(量研機構)らは、ITER TFインサートコイルの昇温再冷却によるTcsの低下について報告した。冷却サイクル5回まではTcs
低下するが、6回目以降は一定値に落ち着いており、実用上は問題ない。メカニズムについて質問が出たが、現状未解明とのことであった。
2D-09:梶谷(量研機構)らは、ITER-TFインサートコイル熱処理時のトラブルによる想定外の温度変動によって、Nb3Sn線材のIcがどの程度
変動し得るかについて調べた。Icのみではなく、n値への影響も調べるべきとのコメントが出た。
2D-a10:西村(核融合研)らは、ITER-TFコイル用Nb3Sn線材の中性子照射によるIc変化について報告した。伝導冷却型のIc測定プローブに
よりIc測定を行なっているが、通電による発熱の影響が問題とのことであった。




11月20日(火)
P会場 ポスターセッションII

高温超電導冷却システム 2P-p01-05 座長 山口 作太郎

高温超伝導システムでの冷却問題は流路の長いシステムでは液体窒素を用いるといえども本質的な問題になる。発表は全部で5件あり、超電導
ケーブル関連の発表が3件あり、内2件は鉄道き電線用冷凍機の小型化であった。他の2件はコイル及びモータ等の回転機での冷却を議論していた。
「2P-p01:只熊他(九大)」の発表では2つの今までの事例について説明を行っていたが、モデル2(石狩プロジェクト 輻射シールドがない場合)
の熱侵入は冷媒往復経路であるのに対して、モデル1(横浜プロジェクト)では片道の熱侵入が予稿集Table 1に書かれていて、圧力降下や温度上昇
についての値が往復か片道かの区別が記載されていない。また、書かれた結果から考えるとどちらのタイプでも10 kmを現実かすることは極めて
困難である思える結果である。逆に言うと、本発表で解析に使われたケースとは異なったシステム構成の冷却システムでないと、長距離超電導
ケーブルの実用化は困難ではないか。更に、冷凍機COPは温度が77 Kから65 Kあたりではかなり低下するため、銅ケーブルとの損失比較では十分な
注意が必要になろう。


GM冷却機 2P-p06-08 座長 増山 新二

2P-p06:平塚(住重)は、4 K-0.1W機(RDK-101)の圧縮機として、既存の圧縮機ユニットCNA-11(ロータリー型)と比較して総体積で50%
削減されたリニア圧縮機を開発し、冷凍性能を評価した。試験結果から、ヘリウムの封入圧力3 MPaにおいて、到達温度1.96 K、2.0 Kでの
冷凍能力3.86 mWを達成した。今後は、蓄冷材やバルブタイミングの最適化を図り、さらなる温度低下を試みる。
2P-p07:星野ら(東工大)は、室温磁気冷凍機の蓄冷材において、Mn系と、La系材料を階層充填構造にすることによる冷凍能力の計算結果を
報告した。全長150 mm(低温端:1℃、高温端:25℃)の蓄冷器において、磁性材料のキュリー温度間隔が1, 3, 6℃ずつ異なる材料を想定した。
Mn系、La系とも、温度間隔が1℃(1個の蓄冷材が6 mm長で、それを25種類)の組み合わせが高い能力を示した。今後は、実機での実験も計画中
である。
2P-p08:表ら(金沢大)は、水素液化を目指した磁気冷凍用機蓄冷材の磁化とエントロピーの測定結果を報告した。材料は、SmxGd1-xTiO3
[x = 0.2, 0.3] であり、これはカザン連邦大学と共同で開発中である。結果から、キュリー温度はSmの含有量を増すことで低温側にシフトし
x = 0.3で18 Kとなった。また、20 Kでの磁気エントロピーの変化が、Smを添加することで増加することが確認され、GdTiO3より大きな磁気熱量
効果が期待できる。


HTS交流損失 2P-p09-12 座長 馬渡 康徳BR>
2P-p09:川崎ら(九州大、産総研)は、積層した REBCO 超伝導テープ線材の磁化損失について、積層枚数を変化させたときの交流損失の
磁場振幅依存性は、磁束の中心到達磁場について規格化すると積層枚数によらず一本の曲線にスケーリングすることを示した。
2P-p10:古川ら(九州大)は、端部接触抵抗を変化させたときのY系超伝導並列導体における付加的交流損失について理論的・実験的に
検討し、素線の通電特性をn値モデルとする理論計算結果は実験データと概ね一致することを示した。
2P-p11:原本ら(鹿児島大)は、短尺高温超伝導線材の交流損失のピックアップ・コイル法による測定について、マグネット巻線の線径や
ピックアップ・コイルとキャンセル・コイルの配置が磁化損失の高感度測定に及ぼす影響について考察した。
2P-p12:西尾ら(鹿児島大)は、パワー・エレクトロニクス機器における常伝導コイルを超伝導化した場合について検討し、パワエレ装置
の駆動電流には ~kHz 程度の高周波が重畳されており、そのときの交流損失を液体窒素蒸発法により測定した結果について報告した。


超電導接続(3) 2P-p13-17 座長 高島 浩

2P-p13:東海大の武輪らは、異種超電導線材間の接続を、BiPbはんだを用いた接続と銀ペースト中にYBCO粉末を混合したペーストの2つ
の手法で作製した。銀ペーストでは、YBCO粉末を80 wt%添加した際に抵抗値が最低を示し7.81×10-7 Ωであることが示された。
2P-p14:島根大の舩木らは、水酸化物をフラックスに用いて酸素欠損のないREBCO線材間の超電導接続の作製を行い、熱処理温度の変化
により、単相化やTcの高温化を図った。
2P-p15:東理大の今井らは、簡便な手法であるコールドプレスを用い(Ba,K)Fe2As2接合線材を作製した。SEM画像から接合端部分で線材の
オーバーラップが生じ、臨界電流が制限されていることを示した。
2P-p16:九工大の張らは、有限要素法により超電導接合の電気的・機械的特性を評価し、電流密度の超電導層への集中と機械的応力の接合
面頂点への集中を示した。
2P-p17:NIMSの松本らは、REBCO線材を超電導接続したシングルターンループに磁場を捕捉させ、その減衰を測定し接続抵抗を評価した。
評価の結果、接続を含め、シングルターンループ内の抵抗が1×10-12 Ω未満であることを確認した。


磁気軸受 2P-p18-21 座長 内藤 智之

本セッションでは、4件の発表があった。
「2P-p18:宮崎(鉄道総研)、2P-p19:澤村(ミラプロ)」 最初の2件は鉄道用超電導フライホイールに関する連番の発表であった。超電導磁気軸受
(REBCOバルクとREBCOコイルで構成)の浮上力の減衰は1年後で4%程度と推定され、浮上高さはコイルへの通電電流で制御されること
から、想定される運転期間20年間は担保できるとのことであった(2P-p18)。上記運転期間中の充放電(すなわち、フライホイール回転数の
上昇・下降)は数十万~数百万回に及ぶことから耐久性試験装置を開発しており、開発を進めながら試験結果を蓄積し、耐久性に関するデータ
ベースを構築していくとのことであった(2P-p19)。
「2P-p20:山岸(横浜国大)」 複数の円盤状超伝導バルクから切り出された立方体バルクを複数個組合わせた集積型磁気軸受についての発表
であった。各立方体バルクのバルク中心における捕捉磁場を元に組合せが最適化された集積型で円盤状バルクと同様の安定浮上が得られたとの
ことであった。
「2P-p21:二村(秋田県立大)」 超伝導ステータに永久磁石リングを組み合わせることで超伝導磁気軸受の高剛性化が得られたとの発表であった。
このハイブリットステータにより安定浮上する水平方向の範囲が2倍以上に向上したが、永久磁石サイズの最適化により更なる高剛性化が可能と
のことであった。


電力応用 2P-p22-26 座長 宮城 大輔

本セッションでは、電力応用に関する5件の発表が行われた。
2P-p22金原(早稲田大学):無絶縁REBCOコイルを超電導電力貯蔵装置(SMES)に応用するため、PEECモデルによる電流分布解析とFEMによる
連成解析により、絶縁と無絶縁のそれぞれの利点である高効率と高熱的安定性を両立できる巻線間電気抵抗値が100 mΩcm2程度であることが
示された。
2P-p23鎌田(明治大):高温超電導電磁力平衡ヘリカルコイルでは線材厚み方向曲げと幅方向曲げによる機械的ひずみが分布されるが、これら
の複合的曲げ歪の線材長手方向軸成分のひずみ分布に対するIcの評価方法を示し、実験による検証結果が報告された。
2P-p24赤堀(東大):新幹線用の静止形周波数変換装置への超電導限流器の導入箇所とその効果について検討結果が報告された。
2P-p25宮野(明星大):薄膜型超電導限流素子の温度・電位差分布同時測定用プローブの開発状況とLN2浸漬冷却下での課題が報告された。
2P-p26岩月(東大):平均駅間が短く、運転間隔が短い通勤線駆を想定したモデルを用いて運行パターンの変動を考慮に入れた直流き電鉄道
への超電導ケーブルの導入効果を検討し、瞬時最大出力、変電所容量、さらには消費エネルギーも削減が可能であることを示した。




11月21日(水)
A会場

送電ケーブル(1) 3A-a01-05 座長 富田 優

3A-a01:艦磁研の廣田より、船舶の脱磁用として海底に平らに設置する超電導コイルの冷却について報告があった。最大電流を100 kAとし、
磁場計算からテープの稼動温度および電流値を算出し導体構成を決定した。
3A-a02:九大の東川らより、超伝導ケーブルのインダクタンスによるエネルギー貯蔵の可能性について報告があった。巻線直径、巻線密度、
断面積、線材性能を考慮して貯蔵量が計算され、各貯蔵規模に必要なケーブルの構造、条件が示された。
3A-a03:早大の堀田らより、高温超電導ケーブルの短絡事故時の冷媒挙動について報告があった。ある条件を設定した解析結果によると、短絡
電流通電時の発熱により冷媒である液体窒素温度が上昇するが、飽和温度には到達せず気化しないことが示された。
3A-a04:住友電工の森村らより、超伝導ケーブル事故時を想定した、実規模級の模擬マンホールを用いたLN2漏洩要素試験について報告があった。
液体窒素の漏洩によりコンクリート製の容器床面に液溜まりが生じ、液溜まりがなくなると酸素濃度が復帰していくことが示された。
3A-a05:住友電工の林らより、現行の電気事業法の下では超電導ケーブルの取扱が想定されていないため、今後の安全規制ルールに向けた
技術資料の作成について報告があった。


送電ケーブル(2) 3A-a06-09 座長 増田 孝人

本セッションでは、超電導ケーブルの洋上風力への応用と、き電線への応用についての発表があった。
3A-a06(遠藤ら)では、洋上風力用としては長距離ケーブルが必要となるが、三相同軸超電導ケーブルについて温度、圧力を計算した。
温度上昇、圧力損失から液体窒素で冷却できる限界の長さが計算され、その短いほうが限界となる。液体窒素が対向流であるので、行き
と帰りの液体窒素の間で熱交換があり、長さを短くしていたが、両者の間に低熱伝導層を設けると限界距離が長くなるとの結論であった。
き電線については、鉄道総研から3件の発表があり、3A-a07 は、過去10年間程度の開発経過のレビューであり、最近は実線路での実証段階に
入ってきたとの発表であった。また、宮崎でのリニア試験跡地での長尺ケーブル試験を計画されている。実用化には、いくつか課題が
あるが、線路脇で布設、施工となるので、簡易な施工、組み立て工法の開発が必要とのことであった。3A-a08は、ケーブルの布設と長手
方向の熱収縮対策についての発表であった。ケーブルは通常、線路脇のトラフに納められる。トラフの蓋があくので、引き込むという
よりは置くことになる。熱収縮については、随所にスネーク、オフセットなどがあり、大きな張力が発生することなく吸収できる。
実際に300 mケーブルでは随所にオフセット、スネークが設けられ、その部分での冷却前後のケーブルの動きを測定し、熱収縮が吸収
されることを確認した。3A-a09では、ケーブルを冷却する際に必要な液体窒素循環ポンプの開発についてであり、従来型に対して、
ガス軸受けにより回転軸を非接触にすることで、メンテナンス間隔を大きく伸ばす工夫がなされている。試作機を作成し、今後試験が
行われる。




11月21日(水)
B会場

MgB2 3B-a01-07 座長 山本 明保

3B-a01: 下山(青学大)らは、ex-situ法MgB2に対する成型圧力の効果を検討した。焼結前の一軸プレス圧を3 GPa程度まで高めることで、
MgB2バルクの相対密度が上昇し、c軸配向化が進むことで磁化法によるJcが20 K、自己磁場下で0.85 MA/cm2に達したことを報告した。
3B-a02: 澤田(青学大)らは、高圧一軸プレスMgB2C2添加MgB2バルクの微細組織と物性について報告した。in-situ法MgB2C2添加MgB2
バルクでは、1 GPa程度の一軸プレス成型を施すことにより、無添加試料と同等の粒間の良好な結合性を維持したまま、Hc2の向上が
みられたことを報告した。
3B-a03: 高木(青学大)らは、Premix-PICT-Diffusion法高密度MgB2バルクにおける高圧プレスによる結晶サイズ制御について検討した。
高圧プレスによって、予め混合したMgB2粒子からフレッシュな結晶面が出現することで、従来よりも低温・短時間の熱処理でJcの向上が
期待できることを指摘した。
3B-a04: 岩中(日立)らは、Mgの加熱蒸着とBのスパッタリングによるMgB2薄膜の新製法について報告した。従来のEB蒸着法では成膜温度
安定性に課題があったが、B蒸着源をスパッタ源に変更することで、成膜温度の変動を従来の約1/10に抑えることに成功した。成膜条件の
最適化は未完であるが、20 Kにおいても良好なJc特性が得られていることを報告した。
3B-a05: 児玉(日立)らは、PIT法によるMgB2単芯線材に対するE-J特性の評価について報告した。製法の異なる2種の線材に対して、SQUID
磁束計により所定の温度、磁場下で磁束クリープを測定し、モデルから見積った低電界領域のE-J特性について議論した。いずれの試料に
ついても、比較的高磁場においても高いn値を持つことを指摘した。
3B-a06: 國政(九大)らは、磁界中磁気顕微法とX線CTによる磁性シースを有するMgB2多芯線材の局所臨界電流分布の非破壊評価について
検討し、XCTにより得られたフィラメントの総断面積と磁界分布から推定された臨界電流の間には有意な相関が得られたことを報告した。
3B-a07: 槇田(KEK)らは、MgB2素線の熱処理前断面変形による臨界電流特性劣化の解明という題目で、ケーブル作製時に加わる外部からの
歪を模擬して人為的に凹みを加えたMgB2素線の内部構造について検討した。XCTによる観察から、熱処理前は凹み変形による内部変化が
存在しなかった一方、熱処理後はNbバリアの破れによるCu領域へのMg拡散がみられたことを報告した。




11月21日(水)
C会場

回転機・超電導応用 3C-a01-05 座長 野村 新一

3C-a01:寺尾(東大)より、バルク超電導体を用いた埋め込み永久磁石型同期モータについて、バルク材の着磁特性に依存する
マグネットトルクと鉄心構造に依存するリラクタンストルクの特性に関して解析結果に基づき議論がなされた。
3C-a02:東(九大)より、REBCO線材を用いた全超電導同期電動機の電機子巻線に関して、レーストラック型コイルと鞍型コイル
の比較検討がなされた。検証実験も行われているが、特に鞍型コイルの端部の扱いをどうするのかに関して議論がなされた。
3C-a03:佐々木(八戸高専)より、超電導バルク材を用いた免震装置に関して、永久磁石の配列と配置の違いにより、復元力ならび
に地震振動周波数領域での共振周波数に関して、小型実験装置による原理検証実験の報告がなされた。
3C-a04:Tsuchiya (Nagoya Univ.)は国際交流奨励賞選考対象の報告であるため、発表も質疑応答も英語で行われた。REBCO線材の
ab面に平行な外部磁場に対する臨界電流特性の非対称性を利用して整流動作を期待する研究であり、試作機を製作して液体窒素冷却
による通電特性が示された。電流電圧特性がダイオードとは違う考え方であるので、今後、回路トポロジーがどういう構成になる
のか詳細な議論が必要になるかと思われる。
3C-a05:井上(東北大)より、銅コイルによる10.8 kHzの非接触給電に対して、低周波領域において非接触給電の高温超電導
コイル化の可能性に関して解析結果に基づき議論がなされた。


HTSコイル 3C-a06-10 座長 岩熊 成卓





11月21日(水)
D会場

HTS線材諸特性 3D-a01-07 座長 木内 勝

3D-a01:神田(中部大)らは、航空機向け新型超伝導ケーブルの大容量化のために、自己磁界を打ち消す線材の配置を提案し、ケーブル
中央部の臨界電流が、単線に比べて1.35倍程度増加することを報告した。
3D-a02:木須(九大)らは、磁場中リール式連続磁化計測システムを用いて、ISD法で作製された10 m長のREBCO線材の局所臨界電流Ic
評価した。線材内には局所的に高低のIcが存在し、この局所Icの大小関係は磁界を加えても相対的に同じであることを示した。
3D-a03:筑本(中部大)らは、超伝導テープ線材接続技術確立のために、はんだ接続部の磁界分布及び電流分布を、3次元ホールプローブ
を用いて調べた。電流は低電流通電時では線材端部に、高電流通電時では線材中央部にも流れることを報告した。
3D-a04:長村(応用科学研)らは、実用REBCO線材の臨界電流の一軸歪特性において、<100>配向の線材は極大値を持ち、<110>配向の線材
では極値がない特性となり、これは線材内の双晶構造を流れる超伝導電流で統一的に説明できることを示した。
3D-a05:富塚(明治大)らは、室温度環境下でのREBCO線材の剥離診断として、AEセンサを用いて2種類の剥離部位を持つ線材を調べ、伝達
関数及び位相特性からベクトル軌跡を描き、本手法から剥離診断が可能であると報告した。
3D-a06:馬渡 (産総研) らは、超伝導テープ線材を用いた螺旋巻円筒状導体の大振幅交流磁界中の履歴損失の解析式を導出した。特に
螺旋巻円筒状導体の電流容量を出来るだけ大きくする条件下での損失の振る舞いは“平坦テープ導体 < 螺旋巻円筒状導体 < 円筒導体”
となり、提案理論の有効性を示した。
3D-a07:東(産総研)らは、超伝導テープ線材を螺旋状に巻いたCORC線の高速掃引磁場中での磁化損失及び電磁結合を数値シミュレーション
から調べた。事故時等の高速掃引磁場中では、円芯半径をテープ線材と同程度まで細くすることにより電磁結合が抑えられることを示した。